作者、王安石は北宋の政治家。文学者。撫州臨川(現・江西省臨川)の人。宰相になり制度改革を強行しましたが、保守派の反対に遭い、失脚して引退します。散文に優れ、唐宋八大家の一人でもあります。詩のタイトルの「夜直」は宿直のことで、王安石が学士院で宿直をした時の詩です。金炉は宿直室にある金でできた香炉のことで、漏声は水時計の水がしたたる音です。この1句目はずいぶん時間が過ぎたことを言っています。2句目は状況です。翦翦は軽風、つまりそよ風がさっと吹く様子を形容した言葉で、陣陣は寒さが切れ切れに続くこと言っています。寒さ、と言ってもここでは冬の寒さではなく、春の肌寒さでしょう。春色は、春の気配。夜、寝ようと思うと冬と違っていつの間にか暖かくなっていて、「ああ春だなぁ。明日早起きしてみようか」などと、ちょっとそわそわして眠れない感じですね。そして、外を見てみるとさっきまでは地面にあった花の影が、月の位置が動いたことで欄干のあたりにまで上っている。情景描写も心理描写もみごとで、一枚の絵が浮かび、春の雰囲気を存分に伝えてくれます。前回紹介した蘇軾の「春夜」と並んで、春の夜を詠った名詩です。
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